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「紙片の宇宙」(後編・展示について) ポーラ美術館

ポーラ美術館
「紙片の宇宙 めくりめく、絵画と書物の出会い シャガールマティス、ミロ、ダリの挿絵本」
2014/9/21-2015/3/29



前編(美術館について)に続きます。ポーラ美術館で開催中の「紙片の宇宙 シャガールマティス、ミロ、ダリの挿絵本」を見て来ました。

「紙片の宇宙」(前編・美術館について) ポーラ美術館(はろるど)

さて「紙片の宇宙」、どこか詩的なタイトルですが、メインはいわゆる挿絵本です。ドガにはじまり、フジタ、シャガール、ルオー、ピカソマティスにミロ、またダリまで、主に20世紀の画家らによる挿絵本約50冊が展示されています。

また意外にもポーラ美術館において挿絵本を全面に打ち出した展覧会は初めてだそうです。まずは楽しめました。


「愛書家D氏の書斎へようこそ」展示室風景

冒頭からぐっと引込まれます。「愛書家D氏の書斎へようこそ」と名付けられた展示空間、とある愛書家の書斎を模しています。ピカソの「裸婦」やルソーの「エディンの園のエヴァ」らの絵画とともに並ぶのはローランサンの「スペイン便り」やマイヨールの「愛の技法」といった挿絵本です。とりわけ「スペイン便り」のアール・デコ調の装丁が印象に残りました。


右:マルク・シャガール「ポエム」1968年 木版、コラージュ、紙
左:マルク・シャガールオペラ座の人々」1968-1971年 油彩、カンヴァス


なおご覧のように展覧会は全て挿絵本だけで構成されているわけではありません。同時代、同じ画家の絵画作品もあわせて見ることが出来ます。そしていずれもポーラの所蔵品です。改めて同館の充実したコレクションには目を見張りました。


アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「イヴェット・ギルベール」1894年 リトグラフ、紙

出品作の中でも特に希少なものとして知られているそうです。ロートレックの「イヴェット・ギルベール」、ギルベールとは当時人気を博した歌手の名、16点の挿絵には舞台で歌う彼女の姿がロートレック一流の素早い筆致で描かれています。また余談ですが、黒の長手袋の表紙、レコードのジャケットに仕立てても映えるのではないかと思いました。


左:ジュール・パスキン「サンドリヨン」1929年 エッチング、紙
右:ジュール・パスキン「少女たち」1923年 油彩、パステル、カンヴァス


パスキンです。代表的なのは「サンドリヨン」、ようはシンデレラです。かの物語を5点の版画で表した作品、柔らかく極細のエッチングに淡い色彩がパスキンを思わせます。そしてフジタ、例えば「海龍」です。これが素晴らしい。作品はコクトーの世界一周旅行から日本の滞在記を中心に再編されたもの。黒髪を結った女性の後ろ姿、肩から上の部分が描かれていますが、その艶やかなことと言ったら比類がありません。さも黒髪が濡れているかのような錯覚さえ覚えます。


奥:マルク・シャガール「ダフニスとクロエ」1961年 リトグラフ、紙

シャガール、ルオーも見応えがありました。シャガールを見ていて常に感心するのは優れた色彩感覚です。そして版画の技法も複雑となり、表現の幅も広がっていく。結実が「ダフニスとクロエ」でしょう。リトグラフとしては例外的な20色以上の色が使われた連作、完成には4年以上もかかったそうです。


手前:ジョルジュ・ルオー「受難」1939年 エッチング、木口木版
奥:ジョルジュ・ルオー「ミセレーレ」1948年 エッチング、紙


ルオーも油画では画肌しかり、色彩が特徴的ですが、版画ではむしろモノクロームに見入るものがあります。と言うのも光の取り入れ方です。お馴染み「ミセレーレ」でもキリストを照らす光が殊更に美しく、また際立って見えます。ルオーが光に何を投影して、どう表現しようとしていたのか。その成果を知ることが出来ました。


アンリ・マティス「ジャズ」1947年 ステンシル、紙

ミロも4シリーズほど紹介されています。ミロは作品を出版しては広め、雑誌などの掲載にも積極的な画家でした。そしてマティスです。目立つのは「JAZZ」でしょう。お馴染みの切り紙絵での展開、改めて見てもイメージは自在で躍動感があります。また中には自身の芸術論が組み込まれている。画家の集大成と言える作品かもしれません。

ラスト、著作権の関係で写真は挙げられませんが、ダリの「哲学者の錬金術」には驚きました。というのも端的に大きい。何と高さ80センチを超る装丁本です。ダリはここに錬金術にまつわるテキストを付属して収めています。また版画自体も蛇を環にした「ウロボロス」など、どこかプリミティブなイメージが広がっていました。


右:黒田清輝「野辺」1907年 油彩、カンヴァス

「紙片の宇宙」に続いては常設展です。現在は「ポーラ美術館の絵画 日本の洋画、西洋絵画」を開催中。ブリヂストン美術館の「描かれたチャイナドレス」展で表紙を飾った「女の横顔」もポーラのコレクションでした。そしてモネにルノワールにスーラ、ピカソなど、定評のある西洋絵画コレクションが続きます。


ポーラ美術館常設展示

ピカソの「海辺の母子像」が目を引きました。言うまでもなく青の時代の作品、小舟のとまる海辺で母が子を抱いて祈る姿が描かれている。ぴんとのびた左手の先には一輪の赤い花が捧げられています。この静謐な空間、母子の密接な関係、やはり聖母子像を連想しました。

常設展の最後に面白い試みがありました。それが「美術をじっくり楽しむプロジェクト じっくり/JIKKURI」です。


「美術をじっくり楽しむプロジェクト じっくり/JIKKURI」展示風景

テーマは光。通常、美術館では一定の照度で光を作品に当てています。ようはその光を変化させてみようという企画なのです。


クロード・モネの「エトルタの夕焼け」1855年 油彩、カンヴァス

作品は2点、モネの「エトルタの夕焼け」とボナールの「浴槽、ブルーのハーモニー」です。それを3種類に色温度の異なる光を当てて見せる。例えば「エトルタ」では朝日と夕陽、そしてポーラの標準的な照明(3500ケルビン)、さらには青白い光の3種類を楽しむことが出来る。当然ながら色温度によって見え方がかなり変化するわけです。


ピエール・ボナール「浴槽、ブルーのハーモニー」1917年頃 油彩、カンヴァス

さらにボナールは人物画です。照度を変える展示はほかの美術館でも何度か見たことがありますが、人物画で行っているところはあまり聞いたことがありません。

「浴槽、ブルーのハーモニー」におけるボナールならではの人肌の色彩が照明の変化で変わっていく。我々が目にしているのは絵画でありながら、つまるところ光であることがよく分かります。

ボタンスイッチ一つで色温度を変えて見られる「じっくりプロジェクト」、面白いのではないかと思いました。


「漆の化粧道具展」展示風景

絵画の常設展の後は「ガラス工芸の名作選」と「漆の化粧道具」展をあわせて観覧しました。化粧道具展の香箱の蒔絵などは実に精巧なものです。この辺は化粧品会社のポーラならではのコレクションと言えそうです。

結局食事を含めて3~4時間は滞在していたと思います。初ポーラ美術館、存分に満喫しました。

なお来年になりますが、次回企画展は「セザンヌー近代絵画の父になるまで」だそうです。

「セザンヌー近代絵画の父になるまで」@ポーラ美術館 2015年4月4日(土)~9月27日(日)

同館のコレクションに加え、国内のセザンヌ品を集めて追うセザンヌの画業の道程、さらに同時代の画家の参照もあるそうです。これは期待出来るのではないでしょうか。


ポーラ美術館エントランス付近より

お正月を含めて会期中は無休です。2015年3月29日まで開催されています。

「紙片の宇宙 めくりめく、絵画と書物の出会い シャガールマティス、ミロ、ダリの挿絵本」 ポーラ美術館 @polamuseumofart
会期:2014年9月21日(日)~2015年3月29日(日)
休館:会期中無休。ただし2015年1月21日(水)は展示替えのため企画展示室は休室。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800(1500)円、65歳以上1600(1500)円、大学・高校生1300(1100)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。
 *小学・中学生は土曜日無料。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
交通:箱根登山鉄道強羅駅より観光施設めぐりバス「湿生花園」行きに乗車、「ポーラ美術館」下車すぐ。有料駐車場(1日500円)あり。

注)館内の撮影は美術館の特別な許可を得ています。